烏有に帰す

中古美術蒐集家&小料理研究家の雑事記

贋作考

少し前の話だけれども現代日本画の有名作家のリトグラフの贋作が大量に出回っていて問題になっているそうな。大阪の画商が版画の工房に作らせて百貨店へ安く卸したもので、売った百貨店は気の毒な話である。

 

しかし、そもそもリトグラフなどの版画に贋作という概念が成立するだろうか。摺っているのは当該作家のリトグラフを過去に制作したことのある摺師なのである。例えるなら過去にライセンス生産を請け負った工場が勝手に同モデルの工業製品を製造販売しているようなもので著作権や契約上の権利侵害はあってもそれが美術品として「贋」となるとは思えないのである。せいぜい作家の直筆サインが無いというだけで、小説作家の直筆サイン入り限定単行本小説とサインなしの単行本との違いであろう。単行本自体は全く同一品と考えて良いと思う。正規品ではない並行輸入品やアウトレット品と同列なのではないだろうか。

 

思うにリトグラフ木版画などこの世に数十から数百枚同様物が存在するものに美術品としての価値があるのだろうか。いやしくも美術品と言うからにはこの世に二つとないものであるべきだと思う。しかもそれが本来の版画作品ではなく原画の複製なら猶更で、あのようなものに数十万円、ものによれば数百万円も払う人の気が知れない。あれは率直に言って美術品ではなく聖遺物だと思う。狂信的な信者が教祖の聖遺物に大枚を叩く構図と変りないのだ。某家流茶道のお弟子さんが有難がって真っ黒なお茶碗に何十万、何百万円払うのと同じだと思う。